レビュー

超自由な音楽プロジェクト「マテリアルクラブ」が作り手の可能性と聴き手の可能性を広げる

Sugar(@Sugarrrrrrrock)です。

 

今回は11/7にリリースされたマテリアルクラブの1stアルバムのことを書きにきました。

これが本当に変なプロジェクトで、今まで聴いた中でもトップクラスに自由で変な作品なんですよ。もちろん褒め言葉なんですけど。

マテリアルクラブとは?

公式HPのプロフィールと、iTunesのコメント文を載せておきます。

Base Ball Bear 小出祐介主宰の、ソロでもなくバンドでもなくユニットでもなくグループでもなく
新音楽プロジェクト =“マテリアルクラブ” 。
盟友・福岡晃子(チャットモンチー済)を制作パートナーに迎え、閃きのままに
繰り広げられる(ほぼ)はじめてのDTM。
作りたいものを、作りたいときに、作りたいだけ作ります。

https://www.jvcmusic.co.jp/q2/materialclub/index.html

 

マテリアルクラブ「マテリアルクラブ」iTunes スタッフメモより

 

Base Ball Bearのフロントマン小出祐介さんが主宰で、チャットモンチー(済)のあっこさんがメインパートナーで、DTMによる打ち込み中心で、曲ごとにバンドマン、ラッパー、女優と多方面からゲストが参加している。

ざっくりこんな環境下の音楽です。

 

「ソロでもなくバンドでもなくユニットでもなくグループでもなく」っていうのがミソなんですよね。

というのも、Base Ball Bearというバンドが同期(シンセサイザーとか)を使わずギター・ベース・ドラムだけで演奏することに拘り続けてきたバンドだったから。

それが4ピースから3ピースになった最初の作品でその縛りを解禁し、さらに今回はPC上で曲を作っている。

 

これまでルールを設けて縛っていた部分を一気に解放したことで圧倒的に自由な音楽が生まれたと思います。

 

はっきり言うと、主宰が他の人だったらこんな変な音楽に出会うきっかけが無かったと思う(笑)全然バンドサウンドじゃないし。

 

Base Ball Bearありきのマテリアルクラブじゃないと聴かなかっただろうし、むしろそういう文脈で聴くことでより魅力が伝わってきました。

 

自由な音楽の中に、これまでのバンド経験で培った哲学もちりばめられていて、

DTMだけどバンドみたいな手作り感というか、作ってる人のライブ感に溢れてる作品です。

 

何曲かピックアップして感想を書いてみました。

マテリアルクラブ「マテリアルクラブ」感想

機械的な音に乗せて”ロック”と”ライブ”を歌った

最初の「Nicogoly」と続く「00文法」がマテリアルクラブの自己紹介でもあり、アーティスト小出祐介としても挨拶代わりとなる2曲。

レシピ メモりながらよく聞け

(1)にロック (2)にヒップホップ (3)に雑味

すなわち 経験値

マテリアルクラブ「Nicogoly」

“(1)にロック”と歌ってることが、バンドと地続きで鳴ってる音楽だということの証明なんじゃないかと。

1周アルバムを通した後に聴いたこのワードがとても響きました。

 

曲の後半ではリスペクトするアーティストの言葉を引用し、ルーツと音楽的な探求、そして自身の価値観、それらのバランスを踏まえた上で、ポップミュージックを作るんだと歌っています。

歌詞は。俺が常に志してることについて歌っていますし。さっきバランス感云々みたいな話をしましたけど、なんでそういうバランスを俺が取ろうとしてるのかってことだったり、これはバンドでもそうだしマテリアルクラブでもそうですけど、どういうものを作っていきたいのかってことを歌いつつ、何よりマテリアルクラブの自己紹介ソングになってる。

https://www.jvcmusic.co.jp/q2/materialclub/houkago/no02.html

続く「00文法」もバンドではなく、1人のアーティストとして「この人をフォローする」って改めて思える言葉の応酬。

「型」じゃない カタログでスタイルを選ばない

マテリアルクラブ「00文法」

 

そのまま動くな 音の波に抗いな

我慢できなかったら それが本当のダンスだ

そのまま動くな 言の葉ゆれるの感じな

我慢できなかったら それが本当のライブだ

マテリアルクラブ「00文法」

 

このプロジェクトにおいても、「ロック」と「ライブ」が根底に流れているんだと感じられた冒頭2曲。

音楽は機械的だけど、だからこそ作ってる人の本質的なメッセージがダイレクトに伝わってきました。まぁ裏で流れてるベースラインも凄いんだけど。

ピュアな感情と男気が交わった

冒頭の2曲が終わると曲ごとにゲストが代わる代わる加わっていくんですけど、やっぱり1番気になるというか衝撃的だったのは5曲目の「告白の夜」でしょう。

 

feat.の後の文字見て下さい。最初何度見したことか(笑)

しかもこの曲が小出さんが全編打ち込みで作った初めての曲だそうで。

 

Base Ball Bearの最新アルバムのテーマである「2周目の青春」に通じるような世界観を、ディープなサウンドとTOSHI-LOWさんの歌が表現しきってるんですよ。

本当にこんな交わり方、化学反応ってあるんだなって。

 

きっかけはこの作品にも参加しているRHYMESTERの主催イベントで、その時の様子をインタビューで語っていたので載せておきます。

そう(TOSHI-LOWさんが”鬼”と)言われてるらしいなーぐらいだったんですよ、僕は。全然偏見なく、めっちゃいい人って感じで。人柄が好きになったからお願いしたんです。

(中略)

最後のRHYMESTERの呼び込みをやったんです。そこで初めて話したんですけど、その時にTOSHI-LOWさんがめっちゃかわいくて。すげー大好きっ!って思って。何かいっしょに仕事したいなって思って、TOSHI-LOWさんにこの曲合うんじゃないかと、オファーさせていただきました。そしたら、まあ、もう、二つ返事で快諾いただいて。

https://www.jvcmusic.co.jp/q2/materialclub/houkago/no02.html

ナニコレ。本来どっちからも超えるべき障壁がありそうな所を一気に飛び越えてる。

こいちゃんのピュアさと鬼の男気。凄いとしか言いようがない。

 

そして、この2人を繋げたRHYMESTERのDさんと以前Base Ball Bearの曲でもコラボ経験のあるRyohuさんが参加した7曲目の「Material World」もめちゃくちゃカッコ良い。

この面々なのでもちろん本格的なラップミュージック。

 

実験と化学反応を繰り返し、1つの音楽、作品、そして人間を作り上げていく。

この曲で繰り返される「すべては素材さ」というフレーズが、マテリアルクラブの音楽理念となっているのが伝わってきました。

アーティストの本質に潜った

アルバムも終盤、マテリアルクラブの初期からあったという9曲目の「WATER」からもまた、小出さんのアーティスト精神がビシビシ伝わってくるんですよ。

地道な制作過程と根本にある表現欲求を行き来するような曲。

 

“わかりやすさが正義” 結果出してるやつの方程式

否定はせずに ダイブしよう 比喩の海に

わかりやすさに流れることを否定しないけど、それでも…!!

という部分こそマテリアルクラブ流、小出祐介流ポップミュージックなんだと。

 

自分も文章を書きながら、ここのせめぎ合いなんだよなーと(笑)

そんなこと言える立場じゃないけど、この感覚はずっと大事にしたいと思いました。

 

そして最後「全てを素材にしてこれからも続いていくぞ」という決意を歌った「New Blues」で締めくくられます。

ここでようやく小出さん1人で1曲通して”歌”を歌い切るっていう、マトモな曲(笑)

 

改めてやっぱり自由で変な作品だったけど、それだけじゃなかったなと。

その余韻のまま2周3周と繰り返していく度に、新たな発見がいくらでも見つかると思います。

“もう一つのアウトプット先”がアーティスト活動を加速させる

 

最初こそ「スゲェ変なアルバムだな」というのが第一印象だったけど、

こうして書いていくうちに「アーティストとして在るべき姿を表現してる作品だな」という感想が浮き上がってきました。

 

まぁここで取り上げなかった曲はクセの強い曲(もはや曲ではない?)って感じなんですけど(笑)

ラップだったりポエトリーだったり英語だったり、正攻法ではなくて遊びも交えて、

音楽を通して大人の青春真っ只中だなー楽しんでんなーって。

 

 

あと、バンドが長く続くためにもバンド以外のアウトプット先っていくつかあった方が良いなって思いました。

ソロだったり今回みたいなプロジェクトだったり、文筆だったり。

 

小出さんにとってこの作品がこれからのBase Ball Bearの活動にフィードバックされるのは間違いないです。

 

バンドとマテリアルクラブがどういう関係性にあるのか。マテリアルクラブはBase Ball Bearがよりソリッドでポップなものを目指すバンドになっていくために、溢れたアイデアを形にする場所である、と。バンドから生まれたアイデアをマテリアルクラブで形にしたのが、今回の作品なんですね。っていうことは、この逆もたぶん、今後起こりうる。だって俺人間だもの。

https://www.jvcmusic.co.jp/q2/materialclub/houkago/no01.html

 

ベボベにもマテリアルクラブにも相乗効果を生み出して、アーティスト活動が加速するんじゃないかと。

両方の今後がますます楽しみです。過去の作品もいま一度掘り下げてみようと思います。

 

そして自分にとっても「この人の考えが好きだな」って思えるアーティストが色んなジャンルに開いていくことで、新しい感性が開いていく気がします。

 

このマテリアルクラブも、2018年11月7日以降の自分の素材として、今後何か可能性を広げてくれると思う。これからラップとかヒップホップにハマるかもしれないし。

 

マテリアルクラブ、聴いた人の新しい興味の引き出しが見つかる音楽です。是非聴いてみて下さい。聴いた人はその引き出しをどんどん開けてみて下さい。