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【アジカン特集】暗闇から生まれたアルバムに「ファンクラブ」と名付けた意味

11月の1ヶ月をかけて行うASIAN KUNG-FU GENERATION特集

 

「時代を貫いて響くもの」ASIAN KUNG-FU GENERATIONを特集します。

 

第1回で取り上げるのは3枚目のアルバム「ファンクラブ」です。

アジカンを知れば知るほど好きになる1枚。

つまりは、音への好奇心や当時のバンドの心境に寄り添って聴き込むエネルギーを要するアルバムだと思っている。

 

 

リアルタイムで追っていた方にとっては、

 

「あれ、アジカンなんか変わっちゃった?」

「こんなに暗い曲ばっかりだったっけ?」

 

と、好き嫌いが分かれるというか、第一線で応援し続けるか少し距離を置くかで分岐点になったアルバムだったかもしれない。

 

リアルタイムを知らない自分からしても、このアルバムは他のアルバムと違った違和感を感じる。

 

 

1枚目「君繋ファイブエム」と2枚目「ソルファ」でブレイク街道を急角度で猛スピードで駆け上がった次の作品。

もうちょっと内向きになってくというか。バンド自体に対する焦りですね。もうちょっといい曲書けなきゃいけないし、技術的な面白さもなきゃいけないし、ただ売れただけのバンドで終わっちゃう、確固たる何かが欲しい、みたいな。

あの頃にちゃんとバンドになったと思います。

【インタビュー】アジカンのメンバー本人の言葉で解明する結成20年と『ソルファ』再RECの真相(https://rockinon.com/news/detail/152158)

 

複雑でストイックな演奏を追い求め、「これでいいのか」「これじゃ駄目だ」とひたすらに内側に問いかけ続けた歌。

ここまで露骨に暗いと感じるアルバムは20年以上続くアジカンの歴史の中でもこの1枚だけ。

 

 

そんな独特のオーラを放つアルバムに「ファンクラブ」と名付けた理由はいかに。

 

 

多くのロックバンドにとって、3枚目のアルバムは良くも悪くも転機になることが多い。

 

それでも好きな音楽、好きなアーティストとは少しでも長く良い関係でいたい。

一緒に葛藤と焦燥を乗り越えて、音楽を鳴らす人たちのファンであり続けたい。

 

そう思っている方に聴いて欲しい1枚です。

自意識の内側、人間の闇に迫る「ファンクラブ」レビュー

諦めから始まるアルバム

解く鍵もないのに

 

君に伝うかな

君に伝うわけはないよな

ASIAN KUNG-FU GENERATION「暗号のワルツ」

 

1曲目「暗号のワルツ」から、違和感という違和感がやってくる。

6拍子と8拍子を行き来する複雑なリズムに、諦念が全面に出た詞。

それまでのようなギターロックの王道を行く、熱くて開放的な幕開けとは全く異なる。

 

内省、悲観、諦め、全体を通してこのようなイメージがついて回る。

ゴッチさんは当時、どんなギャップを感じてこのような言葉を紡いだのだろう。

 

 

続く「ワールドアパート」では、以降のアジカンの特徴となる社会と対峙する姿勢が感じられる。

 

遠く向こうで

ビルに虚しさが刺さって

六畳のアパートの現実は麻痺した

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ワールドアパート」

 

それだけでなく、純粋に理想(夢)と現実との距離もリアルに感じさせられる。

 

バンドが自覚している実力と、実力に対する人気の飛躍度合いとのギャップにも例えられていたかもしれない。その差がこのアルバムの曲を生み出したように思う。

 

 

ダークサイドに寄った「ファンクラブ」の核を持ちつつ、表の顔を担っているのが先行リリースされた「ブラックアウト」とシングル曲の「ブルートレイン」

ボタンひとつで転送 来る未来を想像する

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ブラックアウト」

 

鈍る皮膚感覚

僕を忘れないでよ

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ブラックアウト」

10年以上前のこの曲が未来を予測していたように、感情を持つ人間であることを考えさせられる機会が増えているように感じる。

 

機械やロボットが便利さと引き換えに人の弱さ、無力さが浮き彫りにしても、人間らしさを選べるだろうか。

止めどない青さの行き先は

夢から醒めたような 現在(いま)

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ブルートレイン」

夢から覚めても青臭さを持ち続けることが出来るだろうか。

 

そういう風に考えることもして欲しいけど、この2曲は複雑な演奏で内向きな詞でありながらとても聴き心地が良い。

切実でシリアスなものを作りたいと思っていて。そんなにとっ散らかってない感じで、中には一本ちゃんと流れている、そういう深く掘ったものを内容的には作りたいなって。それは音像の部分より、むしろ精神性の部分で(笑)。

(中略)

開けた草原にいるようなイメージで、牧歌的なものは今回なるべく使いたくなくて、どちらかというと都会的で人間の意識の中にあるものや黒いイメージ、そういうイメージですかね。

Vo.ゴッチの日記(http://ent2.excite.co.jp/music/interview/2006/asikun/03.html)

 

当時のゴッチさんはこんなことを言いつつも、良い意味でポップな面がある。そのバランスの良さが人気バンドだと思うし、聴きやすいからこそ言葉が刺さる。

 

とは言えアルバム全体としては内省、悲観、諦めといったテーマをズルズルと引きずりながら進んでいく。

心の奥の闇に灯を

 

マイナーな曲調ながらダンサブルという不気味(それがクセになる)な「バタフライ」は蝶ではなくてむしろ蛾のイメージ。

宛先のない手紙みたいな

行き場も居場所もない僕らの

摺り込まれた夢や希望は

燃えないゴミの日に出して そのまま

ASIAN KUNG-FU GENERATION「バタフライ」

 

光にあこがれ、しかし届かなくて諦めてしまい、自意識の暗闇に囚われてしまう。もはや光に吸い付く蛾にもなれない。

 

どんどん内へ潜って心の闇にズルズルと飲み込まれる。

 

続く「センスレス」で、ここまでの流れを切り裂くかのようにアルバムにようやく明るい光が降り注ぐ。

 

「ファンクラブ」で個人的に1番好きな曲。

 

今年のROCK IN JAPAN、大トリのGRASS STAGEでこの曲を鳴らす姿を観て、

「これこそ現代の日本のロックのスタンダードを鳴らす、みんなが待ってるASIAN KUNG-FU GENERATIONだ」と心を震わされた。

画面の向こうに読み込まれた言葉

最終的に飲み込まれる心

ASIAN KUNG-FU GENERATION「センスレス」

 

海外のスタジアムバンドを思わせる、強く地面を踏みしめるスケール感で、前半は闇に飲まれる情景を描くも、

 

それでも想いを繋いでよ

ASIAN KUNG-FU GENERATION「センスレス」

 

曲の後半、この一言から一気に熱を帯びて急加速していく。ここまで溜め込んだ全てを開放するかのように。

 

闇に灯を

心の奥の闇に灯を

ASIAN KUNG-FU GENERATION「センスレス」

 

なんとも盛大でストーリーのあるアルバムのフィナーレだろう。

 

盛大なクライマックスから一転

 

がしかし、「センスレス」で盛大なフィナーレを迎えなかったのが、闇を救いきれなかったのこのアルバムの世界観を決定付ける。

 

 

夢ならば覚めて欲しかったよ

迷子を探すような月が今日も光るだけ

ASIAN KUNG-FU GENERATION「月光」

 

再び影に身を落とすミドルテンポのナンバー「月光」「タイトロープ」が本当のフィナーレ。

 

 

手を伸ばして意味の在処を探して

見失った此処が始まりだよね

そうだね

ASIAN KUNG-FU GENERATION「タイトロープ」

 

希望とも諦念ともなんとも言えない言葉を残してアルバムは一回り。

「見失った此処」から始まる4枚目の傑作「ワールド ワールド ワールド」は特集の最終回でじっくり紹介したい。

 

アーティストの苦しい時期を共に乗り越えてこそ

個人的にはポジティブワードが炸裂するような曲より、内省的で暗い歌詞をエモーショナルに鳴らす音楽に魅力を感じるので、

この「ファンクラブ」はアジカンの中でも好きなアルバムの1つ。

 

全体的には暗くて難解なアルバムだと書いてきたが、そうは言ってもリードするシングル曲は聴きやすいし、エモくてらしい部分も兼ね備えている。

 

 

ただ、「伝わるわけがない」と始まり、「見失ったここが始まり」と終わる作品。

自意識の内側をぐるぐる回り、結局スタートラインに立ててるかどうか、みたいな空虚さが最後に残るのは間違いない。

 

そのような、言わば後味の悪いアルバムに、何故「ファンクラブ」というタイトルを冠したのだろうか。

 

リリース当時のゴッチさんの想いを読んで欲しい。

このアルバムは、4人でいろいろな音楽的なトライアルを重ねて、「一瞬の刺激として忘れ去られてしまうモノではなくて、時間をかけて必要としてくれる誰かの心にそっと染み込むような、そういう表現にしよう」と、正直辛い局面もいっぱいあったけれど、心血注いで作り上げました。

Vo.ゴッチの日記(http://k.asiankung-fu.com/s/n2/diary/detail/63962?ima=3651&cd=akg_gotch)

 

こう、音楽がどんどんインスタントなものに変化しているような気がして、科学調味料たっぷりの料理が食った瞬間にウマいみたいな、そういう雰囲気をネット社会とか世の中とかTVとかに感じていて、俺はそういうのとは真逆な、もっと地道にゆっくりとリスナーの心に染み込んでいくような音楽が作りたかったのです。ずっと、それをテーマに掲げて制作していました。

ある種の魔法かもしれないね。くさいけど。じんわりとしか効かない感じ。でも効いたのなら一生解けませんよ、みたいなね。そういう魔法です。

時間をかけてでも、このアルバムを気に入ってくれるひととは何かきっと通じ合うもんがあるよなぁ。「ファンクラブ」というタイトルにはそんな意味も込めて。

Vo.ゴッチの日記(http://k.asiankung-fu.com/s/n2/diary/detail/64009?ima=1917&cd=akg_gotch)

 

確かに、このアルバムの楽曲に即効性はないように思う。

自分も最初聴いたときは違和感だらけだった。

 

だけど、その違和感が変わる瞬間がいつかやって来ると信じて。

 

これはアジカンに限った話ではないと。

 

「あのバンドは変わった」「思ってたのと違う」

そうした違和感を感じても、その感覚が意味することを理解しようという姿勢を持って欲しい。

 

ファンに優劣をつけるものではないのは勿論だけど、違和感を良いものだと捉えることが出来る人が、アーティストと長く関係を築けるのではないかと思います。もはや音楽だけに限った話でもない。

 

 

思えば、ファンクラブってとても内向きで閉鎖的な構造じゃないか。

 

方向を見失っても、内に溜め込んでも、本当の意味で飛躍するために、アーティストがじっくり時間をかけられるように。

 

その時期も後押し出来るファンでありたいと。

そう思って頂ける方が少しても増えていったら嬉しいですよね。