レビュー

My Hair is Bad 「mothers」感想。熱狂を追い普遍的な幸せを願う

ついにこの日がやって来た。今もっとも「ロックバンド」という言葉が似合うバンドMy Hair is Badの待望の3rdフルアルバム「mothers」を手に入れました。

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リリースが発表されてから今日まで、全曲ダイジェストのトレーラー映像を何十回と見て、音楽雑誌のインタビューをくまなく読んで、
手に入れる前からワクワクが止まらず色々な感想が脳内を飛び交っていました。
で、やっとその全貌が判明したということで一通り聴いてみました。
率直な感想としては、これまでのワクワクしていた期待の通りだった部分と、「思っていたのと違う」部分が半々ぐらい。
「思っていたのと違う」のはもちろん良い意味で。
この1年でMy Hair is Badがどれだけ変化してきたのかが嫌という程わかるアルバムだと思います。

“woman’s”からの”mothers”である意味

1年間のステップアップと視野の広がり

昨年「woman’s」というアルバムを出してからの1年間、バンドを取り巻く環境は劇的に変わったのは周知の通り。
その過程で椎木さんはじめメンバーの意識も大きく変わったのだろう。
じゃあその変化ってなんだ。
僕はそれは今作のタイトルに集約されているように感じました。
「woman’s」からの「mothers」。見ての通りです。
歳をとって、結婚して子供を持ったかのような視点で、これまでと違った視野が広がってました。
このアルバム、椎木さんの視野が見違えるほど開けているのがすぐにわかると思います。
誰にもわかってもらえなくていいから自分のことを赤裸々に吐き出していたのがこれまでだとしたら、今作では誰かにわかってもらおうという思いがとても伝わってくる。
ひたすら自分ごとを生々しく歌うのがマイヘアの1番の武器だと僕は思っているし、本人もそのことは十分わかっているだろう。
でも、自分のために歌っていた歌が、気づいたら誰かのためになっていたという感触がこの1年で多々あったんじゃないかな。
その感触がバンドマンとして、イチ人間としての視野を広くさせた。
ライブをする場所も1つ上のステージになったし、1人の女性は母になったってことなのではないですかね(笑)

母になったら恋愛出来ない

ここからさらに個人的に「mothers」というタイトルに意味を見出してみました。
「mothers」ってことは誰かと結婚して子供もいるってことですよね。これがどういうことを意味するのか。
母になるってことは、「自由な恋愛が出来なくなる」ってことです。
マイヘアといえば恋愛ソングというイメージは多くの人が持っていると思うんですが、今作ではそのイメージも変わっていくような気がします。
事実、別れがテーマになっているのは先行シングルの「運命」「幻」を除いて新録の恋愛ソングはほとんどハッピーエンドが続く曲。

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この「いつか結婚しても」に代表するように、日常的で普遍的な幸せを描くようになった。
これまでの実体験を赤裸々に曝していた曲の数々とは一転、それこそ「母性」をくすぐるような感じ。
もちろん恋愛ソング作るのは得意中の得意だろうからこれからも武器の1つとして続いていくとは思いますけど、それだけじゃない。
個人的にも恋愛のイメージが先行するのは芳しくないなーと感じていたので、My Hair is Badの本質は別の場所にもあるということが伝われば良いなと思います。

母親的視点から放つリアルな想い

過去の失恋ソングからも見て取れるけど、僕が思うMy Hair is Badの本質は、心の内側をストレートにさらけ出す「生々しさ」
今の世の中、この生々しさを出し切れていないから、時代はマイヘアのようなロックバンドを求めている。
バンド側も今の時代にもっと生々しさを求めているはずだ。
ここ最近のライブで椎木さんはより一層、今の若者には何か物足りなさがあると言わんばかりに心を揺さぶるアツいメッセージをぶつけてくる。
その様子は本人も自虐するようにある種の「説教」のようにも見える。
これも「mothers」に象徴される1段上の視点を持ったからこそなのかなと思います。

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この「熱狂を終え」には椎木さんが今求めている生々しさが詰まっています。
命令口調が続くサビはまさに説教を喰らっているような気分になりそうだけど、一方的に言われてるんじゃなくて自分の本心を代弁してくれているよう。
「やってやろう」って感情が自然と内側から溢れ出てくる。
椎木さんも誰かに強く訴えかけながらも誰より自身に言い聞かせてるんだと思う。
彼の生々しさがまるで自分ごとのように、当事者になった気分で聴こえてくる。
ここ1年間ライブを観てきて心を動かされたマイヘアの1番好きな部分です。
My Hair is Badを聴くと切なくなるんじゃなくて熱狂的になれるということを、今作でもっと多くの人に知ってもらいたいですね。

椎木知仁の新たな”我がまま”を読み解く1枚

ということでアルバムの感想をつらつらと書いてきました。
ざっくりまとめると、感情的で熱量たっぷりな直球どストレートで一点突破していく曲と、次のステージに立って広い視野でメッセージを届ける曲。恋愛ソングはバッドエンドからハッピーエンドへ、って感じですかね(笑)
主観的と俯瞰的が絶妙なバランスの上で成り立っているアルバムだと思います。
失恋ソングの切なさがなくなった代わりに、じゃあめっちゃアグレッシブなのかと言われたらそこだけに振り切れてるとも言えない。
前半はシンプルに「よっしゃやってやる!」って気持ちになったけど、一方後半スゴい深く考えさせられるような、とても聴きごたえのある曲が揃ってます。
詞も普遍的なものも超個人的なものも壮大なものもあるし、椎木さん試行錯誤の上で我がままにやってるなーって(笑)
アルバムが手元にある今ではもう聴き手のものなので、皆さんそれぞれいろんな解釈で読み解いて、自分の感情と照らし合わせてみて欲しい。とても面白いアルバムです。
上で挙げた曲の他に個人的に印象的なのは「永遠の夏休み」「シャトルに乗って」ですね。
また日を改めて曲のレビューみたいなこともやりたいと思います。