レビュー

【アジカン特集】「マジックディスク」と「ランドマーク」から見る”2010年代”の変化と普遍

11月の1ヶ月をかけて行うASIAN KUNG-FU GENERATION特集。

「時代を貫いて響くもの」ASIAN KUNG-FU GENERATIONを特集します。

第1回の「ファンクラブ」、第2回の「君繋ファイブエム」「ソルファ」に続いて、第3回で取り上げるのは6thアルバム「マジックディスク」と7thアルバム「ランドマーク」です。

 

それぞれ、2010年と2012年にリリースされた作品で、それぞれの年の時代感が詰まった2枚。

 

音楽・CDをはじめとした不況、それ以前にロストジェネレーションを生きてきたアジカンが、閉塞感に別れを告げて、新しい10年の幕開けを告げる開いたメッセージを放ったのが「マジックディスク」

 

それから2012年までの間に起こった出来事を受け、愛とエール、僕らを守るためのNOのメッセージも強く放ったのが「ランドマーク」

 

 

時代感が特に色濃く出ている2枚ですが、歌われている言葉は色褪せておらず、もうすぐ2010年代も終わる今でも届けるべき普遍性を持っています。

 

「マジックディスク」「ランドマーク」ショートレビュー

マジックディスク

時代の閉塞感を感じながら、ロスジェネ世代と言われながら日本のロックの旗手となったアジカンが00年代に別れを告げて新しい時代を迎え入れる。オープンマインドなアルバム。

 

ピアノ、ホーンにストリングスなどの楽器を取り入れ、ヒップホップやラップ的なジャンルにも飛び込んだ。

「ファンクラブ」「ワールド ワールド ワールド」で固めた盤石のバンドサウンドから、曲作りにおいても1段階レベルアップしている。

 

基本的には『ワールド~』の延長線上なんだけど、『ワールド~』の唯一の反省点っていうか、まあ、それが良かったところでもあるとは思うんだけど、歌詞の面で、日常というか、青春とか恋愛みたいな部分をかなり置き去りにして作ったものではあったから。その辺をちょっと戻さなきゃみたいないけないみたいなのがありつつ、サウンド的にはもう少し自分で曲を書きたいなっていう気持ちがあった。作曲家として挑みたいみたいな気持ちがあって。なるべく自分の力で作るっていう気概みたいなものがあったんですよね。

http://ent2.excite.co.jp/music/interview/2010/akg2/interview02.html

 

愛と正義、人間らしさを持って、新しい時代の幕開けを力強く歌った「新世紀のラブソング」から始まり、

暗い世代はここで終わりにしようと歌った「さよならロストジェネレイション」

ホーンの音と共に現在を高らかに鳴らした「迷子犬と雨のビート」

“繋いで”というワードに固執していた初期のバンド自身を乗り越え、孤独の安息を抜け出して自立した個であれとメッセージを放つ「イエス」など、楽器の多様さもあってバラエティに富んでポップ色も強い12曲。

 

アルバムのコンセプトから外れるということで、かの代表曲「ソラニン」をボーナストラックとして収録するという贅沢起用からも、かなりの意欲作であることが伝わってくる。

ランドマーク

ロック本来の役割とも言えるような、意志表示を示す鋭い言葉と、復興へのエール。

 

「マジックディスク」はバンド以外の楽器を多く取り入れたこともあり、ツアーが思うようにいかずバンド内はかなり緊迫感が漂っていたそうで、2011年を契機にそんなアジカンからも復興した。

 

前作から一転して4人の楽器の音を中心としたロックナンバーが終始鳴り続くアルバム。

いろんな意味があって、何か自分たちのこの2011年、2012年の目印になるような作品だし、すべての録音を行ったランドマーク・スタジオの名前も冠してるし。

https://skream.jp/interview/2012/09/asian_kungfu_generation_3_3.php

 

仮名・数字・アルファベットと言葉遊びを巧みに盛り込んだ「All right part2」「1.2.3.4.5.6. Baby」「AとZ」

鋭利なワードで社会・政治を風刺した「N2」「それでは、また明日」「1980」

人の温もりで優しく包み込み、なおかつ力強く背中を押す「バイシクルレース」「踵で愛を打ち鳴らせ」など全12曲。

 

特に「ランドマーク」以降のアジカンの楽曲は音像が立体的でとても力強い。

海外でのレコーディングに踏み出した次作「Wonder Future」に先駆けて、音源としてもダイナミックなロックサウンドを追求していく姿勢も感じ取れる1枚。

「マジックディスク」「ランドマーク」から見る2010年代の変化と普遍

容れ物が代わっても魔法は廻り続ける

音楽の聴き方、作品の作り方、売り出し方、楽しみ方などの転換期にいることを皆さんもようやく強く実感していると思う。

 

時代遅れと言われるCD文化が根強く残っている日本の音楽、ただこれは今に始まったことではない。

 

「マジックディスク」がリリースされた2010年には、YouTubeもiTunesもあったし、初代iPhoneが出はじめたぐらいのタイミングで、アジカンも早くから”音源がどのように聴かれるか”という問題に対して向き合い、その時々でアンサーを出している。

(代表曲”リライト”もCDにまつわる曲なので調べてみて欲しい)

 

廻る 君と今 エイトビート
ただし役目は終わりさ 銀のディスク
ほら 退けよ そこ退けよ

ASIAN KUNG-FU GENERATION「マジックディスク」

 

表題曲の「マジックディスク」はまさに今に至るCDの立ち位置についての内容から歌いだされる。

 

CD、ひいてはレコードの良さ、形に残るものとしての音楽作品の良さを理解し、CDと代わる存在と闘いつつも、新しい時代を前向きに捉えてきた。

 

だからこそ「マジックディスク」のメッセージは”CDが無くなってしまう”なんていう悲しいものではなく、

“イヤホンから聴こえてくる音楽は日常と地続きの場所にあるちょっとした魔法である”ということだと思う。

 

新しいムードのきっかけになるような魔法であったらいいなという気持ちは凄くこめましたね。僕らの仕事はそういうものだと思うし。その「マジックディスク」の最後のライン「特に名前のない喜びを集めて/いまひとつ抑揚の無い日々に魔法をしかけて」っていう。それだなっていう。その二つのラインで完璧だし「俺はその為だけに音を鳴らす!」って感じだから。アルバムの意志としては、素晴らしいなっていう。これが何かしらの魔法になりますようにっていうね。

https://skream.jp/interview/2010/06/asian_kungfu_generation_1_6.php

 

音楽の容れ物が変化しても、音楽の役割は普遍的なまま。

 

CDを買う機会がは減ったけど、それと反比例するように色んな音楽に触れる機会は圧倒的に増えているし、形が変わったってこれからも音楽は人と人を繋いで廻り続けていくだろう。

 

今、この手紙が示す情景は何処だ

2012年の「ランドマーク」はパワフルなロックサウンドが終始鳴っている作品だと書いたが、

「マジックディスク」で思い描いた”明るい2010年代”から一転、再びムードが落ち込んだ時代のネガティブな記憶が詰まっていて、社会風刺も合わせて非常に皮肉めいたアルバムでもあると思う。

 

 

このアルバムを締めくくる「アネモネの咲く春に」を最初に聴いた時に思い浮かべた手紙の宛先は、間違いなく東北だった。

想像を超える出来事が一度に起こって
名前のない悲しみだけが相変わらず今日も
当てどころなく空中に消えました
まるで君たちのようです
敬具

ASIAN KUNG-FU GENERATION「アネモネの咲く春に」

 

あれから7年が経過した今、悲しいことに浮かばれる情景はもっと増えていると思う。

逆にこれからきっと減っていくこともないと思う。

 

だからこそ、争いや災害の際に立ち返る目印(=ランドマーク)として、この作品の重みはどんどん増していくはずで。

新しい手紙の宛先にも思いを馳せて行かねばと、この特集で改めてじっくり聴いて、勝手ながら思った。

 

 

2011年を主に時代感が詰め込んだ作品でもあり、

今もいろんな場所で続いている復興、立ち上がる人たちへのエールとして、普遍的な力を持つ作品。大事に受け継いで行きたい。

次の10年にも引き継がれる音楽

2010年からの10年間をどういう時代にしていきたいか。

そんな命題にアジカンが応えたような2枚を、2010年代も終盤に差し掛かった今改めてしっかり聴いてみると、まだまだこの曲たちの言葉は色褪せていないどころか、次の10年にも引き継いでいかなきゃいけないメッセージを受け取った気分になりました。

 

この国の音楽をどうしていきたいか。

この国の生活をどうしていきたいか。

この国をどうしていきたいか。

 

次の10年もこのバンドとこの曲たちを頼りに生きていくんだと思いました。

 

あれから10年近く経っても、この音楽が新世紀の扉を開いてくれるに違いない。

ほら 君の涙
さようなら旧世紀
恵みの雨だ
僕たちの新世紀

ASIAN KUNG-FU GENERATION「新世紀のラブソング」