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[ALEXANDROS] “Sleepless in Japan Tour”をさいたまスーパーアリーナで観た

6/16に[ALEXANDROS]のワンマンライブを観にさいたまスーパーアリーナへ行ってきました。

 

最新アルバム「Sleepless in Brooklyn」を提げておよそ半年間に渡り行われた「Sleepless in Japan Tour」のツアーファイナル。

 

今回はツアーが終わったので演奏曲や演出にも触れたロングレポートです。

短いダイジェスト的なツアーレポートも3月の横浜アリーナ公演の際にも書いたので合わせて読んで頂けると有難いです。

 

 

ライブレポート

昨年末からライブハウス→アリーナと全国を2周回ったツアーもこの日が最終日。メンバーの不調や怪我にも悩まされたツアーだったが、ツアーファイナルを前に全員がステージに帰ってきた。

 

さいたまスーパーアリーナの400レベルのスタンド席からアリーナを見下ろすと、アルバムの制作拠点だったNYを思わせるステージセットが視界に現れた。

レンガ調の背面に、街の雑踏を想起させる環境音、メンバーの登場口は地下鉄の駅のエントランスを模した、かなり作り込まれた大舞台だ。

 

開演時刻を少し過ぎると、その地下鉄が到着したような音が聴こえ、またしばらくすると場内のBGMのボリュームが上がりいよいよツアーファイナルの幕が開ける。

 

「Sleepless in Brooklyn」の収録曲「アルペジオ」のコーラスパートをSEに、ステージ中央とアリーナ中央に配置されたモニターには向こうで撮影されたで映像が流れる。前回のアルバムツアーや、スタジアムでのワンマンライブと同様、ユニバーサルの映画を思わせる壮大なオープニングムービーだ。

映像の最後に「Sleepless in Saitama」「TOUR FINAL DAY2」の文字が続けて映し出されると、アルバムの1曲目「LAST MINUTE」のイントロが流れ出す。

 

 

足を骨折してしまった影響で椅子に座ってプレイするヒロさんのベースと、ツアーファイナルで復活した腰の負傷からサトヤスさんの繊細なドラムがリードする序盤。

浮遊感がありながらもボトムの効いたサウンドが、ブルックリンの異空間へと投げ込まれたオーディエンスの身体に浸透していく。

 

真ん中に立つ洋平さんがハンドマイクで2コーラスを歌い上げると、後半の間奏からギターを持ち、全ての楽器がアグレッシブに動き出す。

リズムの隙間に入り込む2本のギターとても綺麗に棲み分けられている。アリーナツアーで培ったバンドアンサンブルの集大成を見せてくれる予感が漂った。

 

アルバムの曲順通り、大人びた空気感でライブはスタートしたが、続くナンバーは早くもクライマックス級の「Starrrrrrr」

中央に伸びた花道で洋平さんが白いジャズマスターを掻き鳴らし、2曲目にしてステージからは火花の特効が炸裂。バンドがスターダムを駆け上がる度にこの曲とオーディエンスの大合唱は輝きを増していく。これからも多くの大会場で聴きたい曲だ。

 

 

ただ、今回のツアーの主役はあくまで「Sleepless~」の楽曲たち。

今まで日本のロックシーンを盛り上げてきたライブナンバーと比べると、今作の楽曲はライブハウスでもスタジアムでもなく、アリーナという規模感が1番映えるように感じる。

 

重たいギターリフにバスドラが均一に鳴らされるシンプルな構成からスタートした「spit!」も「LAST MINUTE」と同じように段々と演奏の手数が増えてうねりを帯びていく。

 

ロックの古典的なハードなギターの音像に、海外仕込みの踊れるグルーヴが共存しているのが今作の大きな特徴であることを再実感した。

 

そして、アルバムタイトルからも分かる夜のクールなイメージ。それは「spit!」から間髪入れずに演奏された「Girl A」に見事に引き継がれていた。

 

一旦ステージが暗転すると、聴こえてきたのはサポートメンバーのROSEさんが鍵盤で弾く3rdアルバムの「真夜中」のイントロと歌メロ。

曲と曲の間を駆使して昔からのファンを唸らせる。「Sleepless」と銘打った作品とツアーにピッタリの選曲だ。

 

その流れで不気味に鳴るピアノの音から始まったのは、アルバムには収録されていないカップリング曲「Come Closer」

複雑で変則的なリズムと、洋平さんのラップが交互に繰り返されていく。

完成までに70曲近くのデモを要するほど作り込まれた曲をライブで再現し、かつ更なるアレンジを加える。バンドの探究心の境地を見た1曲だった。

 

続けてミドルテンポのリズムが心地良く伝う「PARTY IS OVER」

アルバムリリース時のインタビューで洋平さんが「向こうで曲をレコーディングするだけじゃなくて、住んで生活して曲が出来ることが1番大事だった」と話していたが、その言葉をまさに音で表現したような、この国では体感出来ない空気感が漂っていた。

そしてサビの最後の「ひとりきりで」という詞を万単位のオーディエンスに歌わせるのが実にこのバンドらしい。

 

アップテンポな曲で無くともアリーナのスケールを活かさんと、洋平さんは多くの曲でシンガロングを求めていた。

「季節外れの雪を降らせに来た」と演奏した「SNOW SOUND」では、ハイトーンのサビどころかアウトロのギターリフまで歌わせる。

それに完璧についていくワンマンライブのお客さんも見事としか言いようがない、声という楽器でライブを演出する一員となっていた。

 

 

「来週にはアジアツアーが始まるからそんなに終わる感じは無いけど、ジャパンツアーは今日が最後なので喉枯らすつもりで歌います!」

とMCを挟み、サトヤスさんの重たいドラムからスタートしたのは前作「EXIST!」から「Kaiju」だ。

 

アリーナには巨大バルーンが投げ込まれ、モニターには矢継ぎ早に飛び交う洋平さんの英語詞が映し出される。

[ALEXANDROS]がヒップホップに本格的に挑んだこの曲がバンドとオーディエンスに与えた影響は「Sleepless~」の世界観に大きく反映されていると感じた。

 

アウトロで洋平さんがセンターステージで倒れ込むと、そのまま流れるように「MILK」へ雪崩れ込む。

「Kaiju」で培ったムーブを更に推し進めていったと共に、今作の特徴でもあるハードなギターリフがフロアを煽動していく。

こういったミドルテンポで縦ノリのナンバーでオーディエンスが大きく波打つのは、スタンド席から見下ろしていて圧巻の光景だった。

 

 

「心の中から騒いでるか!ロックはただ暴れりゃいいってもんじゃねぇぞ、自分自身でいることがロックなんだぞ!!」

という洋平さんの叫びに大きな歓声が上がると、このブロックで今の[ALEXANDROS]が提示する「暴れる」楽曲の象徴にして、今回のアルバムの中核をなす「Mosquito Bite」を力強く演奏。

“未発表の新曲”としてフェスのステージで演奏していた時には馴染みのないタイプの楽曲だったが、アルバムとツアーを通じて、バンドが胸を張ってこの曲を掲げる意味が遂に理解出来た気がする。

ライブ仕様で長いアレンジとなったアウトロをやり切った後に見せる洋平さんとまーくんのグータッチには痺れるものがあった。

 

 

その後メンバーは一旦ステージから居なくなり、1人センターステージに現れた洋平さんが

「さっきも言ったけど、暴れるだけがロックじゃないからね。ウチのベーシスト見たでしょ?笑 骨折してあんなにベース弾いてるの、ああいうのがロックだから」

と一言。メンバーのアクシデントが度重なった中、半年間のワンマンライブを完走したロックバンドの矜持を見せたツアーだった。

 

360度オーディエンスに囲まれた状況で、

「あんまり普段パーティー野郎じゃないから、こんな所に来ると違和感しかない。みんな俺のこと知ってるのかなって。でもこんなに観てくれる人がいるんだったら、もっと誕生日プレゼントとか贈ってくれてもいいのに(笑)」

と茶目っ気たっぷりに月末に迫った誕生日を予告すると、洋平さんのアコギ一本で「You’re So Sweet & I Love You」を演奏し始める。

 

今作の限定版には収録曲のデモ音源が収録されていたが、一本のギターと歌から曲の原型が生まれ、その型がしっかりしているからこそ、バンドとして曲が成り立つことを改めて証明するような弾き語り。

 

曲の途中から他のメンバーも花道を通ってセンターステージに登場し、2サビからギター、ドラム、ベースの順に音が重なっていく演出も、隙間のある序盤から徐々にバンドサウンドが足されていく「Sleepless~」の楽曲に通じるものがあった。

 

アリーナの広大なスケールに「We are the light」の大合唱が響き渡った「明日、また」の間奏でメンバーがメインステージに戻り、ダイナミックな演奏が復活。

立ちふさがる困難を快く受け入れる姿勢を込めた「NEW WALL」でも盛大なシンガロングを響かせる。

このツアーでやり切れない曲も含めて、一体どれほどのアンセムを持っているのかと問いたくなる程、全ての曲がさいたまスーパーアリーナを掌握していた。

 

サイドの2人がパーカッションをリズミカルに叩き、洋平さんのアコギが軽やかに鳴り響いた「FISH TACOS PARTY」を終えると、続けて演奏されたのがアルバムの”本編ラスト”を飾る「Your Song」

 

「Sleepless~」のCDケースに手足が生え、目がついて動き出す。

「僕の名前は ありふれた “君の歌”」と、曲自体を一人称にして歌われるこの曲ならではの映像が背後で映し出されていた。

スクリーンには少女がプレゼントの箱を開ける映像が。「Your Song」の演奏が始まると、中には懐かしのCDウォークマンが入っており、そこにセットされたのは「Sleepless in Brooklyn」。CDケースに手足が生え、少女といつも一緒にいる存在というのはこの曲の歌詞の通りだが、少女が成長してスマホで音楽を聴くようになったことでCDは少女から手に取ってもらえなくなっていってしまう。しかし少女が就活の面接で失敗して落ち込んでいる時にCDが優しいメロディを奏で、少女はかつてずっと一緒に過ごしていたCDウォークマンを手に取る。(中略) そして彼女はカーテンを開け、また新しい1日に向かっていくという、もうこれをそのままこの曲のMVにした方がいいという映像。

[ALEXANDROS] Sleepless in Japan Tour @横浜アリーナ 3/12  –主にロックバンドのライブのセトリや全体の空気感をなるべく早くアップするブログ(http://rocknrollisnotdead.jp/blog-entry-608.html)より

 

この演出に込められたメッセージは決して「形のあるCDの方が〜」ということではないと思う。

それ以上に、聴き手1人ひとりが主役のストーリーに寄り添う歌を歌っていくという[ALEXANDROS]の想いが詰まっていた。

もちろん、何ヶ月も何年も経てば聴かなくなる曲や作品は存在する。それでも昔聴いた曲の歌詞やメッセージが人生のどこかで交わるかもしれない。その時まで曲は聴いてもらうのを待っている。

手軽に色んな音楽に触れることが出来るようになったからこそ能動的に、その時々の心情や景色と結びつけながら音楽を楽しみたい。そんなことを思わされた演出だった。

 

 

「今回の”Sleepless in Brooklyn”というアルバムは2年前から作り始めました。NYに行って久々に4人で暮らして、沢山曲を作って、色んなアーティストのライブを観て悔しい思いもしたけど、アルバムを作って、やっぱり自分達が世界一だと思いました」

「怪我したり、喉壊したりもしたけど、何があっても[ALEXANDROS]は進み続ける。クソジジイになっても、お前らがついて来なくなっても続けます!!」

 

洋平さんの頼もしい言葉が聞けたところでライブはクライマックス。これまでも節目のライブの大事な場面を彩って来た「Adventure」のギターの音色がよりパワフルに聴こえた。

 

自分達が世界一であることを証明すべく、孤高のロックスターであり続けることを高らかに宣言した終盤戦。「Adventure」のシンガロングを引き継ぐように、本編のラストナンバー「アルペジオ」を演奏。

オープニングで流れたコーラスパートを今度はアリーナ全体で鳴り響かせて、2時間に渡るライブ本編は締めくくられた。

 

 

アンコールを求める拍手とスマホライトが飛び交う中、バンドは「Burger Queen」をSEに再登場。そのまま同曲の生演奏へ突入すると、続く「Dracula La」ではもう心配無用と言わんばかりにサトヤスさんのブラストビートが炸裂した。

 

さいたまスーパーアリーナでのライブは以前もフェスのヘッドライナーで経験があるが、自身の主催ライブでこのステージに立てたことに対して、ヒロさんは

「当時まだ[Champagne]だった俺たちがUKプロジェクトに入って初めてのツアーで、同じ事務所の先輩のオープニングアクトとして回ったツアーの初日の場所が、すぐそこにHEAVEN’S ROCKさいたま新都心っていうライブハウスだった。そこでデモCDが70枚ぐらい売れて、初めて自分達の音楽に価値があることを実感出来た。プロのバンドとしてのキャリアが10年前にすぐそこで始まって、今日さいたまスーパーアリーナでこんだけの人を前で、偉そうに座りながら(笑)、凄い景色を見れて幸せです」

と感慨深そうに語っていた。

 

更にこの日は父の日ということで洋平さんがお父さんにまつわるエピソードを語る。

「これからやる新曲に”飛行機の窓から世界を眺めた”って歌詞があるんですけど、一足先に父に聴かせたら”飛行機の窓からは世界は見えねーよ!”と言ってたみたいで(笑)」

「でも、僕の父は世界を飛び回るビジネスマンで、小さい時から色んな国に連れてってもらったので、”いやいや世界見させてもらいましたよ”と言い返したい。その色んな経験が曲や歌詞に活きているから、バカにしないで聴いて欲しいです」

と、世界を夢見るきっかけをくれたお父さんにも向けて新曲「月色ホライズン」を演奏。

 

「Starrrrrrr」や「ムーンソング」でも垣間見える[ALEXANDROS]王道のギターコードが耳に残る。「Sleepless~」で培った海外の経験を、日本のポップソングに落とし込んだような1曲。

今のバンドがそのようなモードであることは、センターステージで続けて演奏された「Pray」からも伝わってきた。

 

そして最後は「どんだけ声を枯らしてもこの曲を歌い続けます!」と、このバンドのポップソングを象徴する「ワタリドリ」を高らかに響かせ、半年に及んだ「Sleepless in Japan Tour」は幕を閉じた。

 

最後はメンバー全員がステージ中央に並び、洋平さんがマイクを通さず「愛してるぜさいたま!!」と叫び深く一礼した。

 

メンバーがステージを去った後にはアリーナツアー恒例のエンディングムービー。

これまでのエピソードでサトヤスさんが電話で話していた”兄ちゃん”役として「アルペジオ」のMVでも共演した木村拓哉さんがドレッドヘアーで映像に登場。

年末に行われる九州ツアーを「10周年に向けて”吸収”するツアーにして来い!」とメンバーにハッパをかけるオチでこちらも完結した。

 

 

これまで日本武道館、幕張メッセ、そしてマリンスタジアムと節目節目で大きな会場でのワンマンライブを重ねてきた[ALEXANDROS]だが、意外にもアリーナツアーを回るのは初めて。

ただそこに対する緊張感のようなものは全く無く、バンドもこの規模で鳴らされるのが当然と言わんばかりのパフォーマンスと演出を見せてくれたし、ツアーの主役を張った「Sleepless~」の楽曲も屋内のアリーナクラスの会場がもっとも良さを引き出せるスケール感だった。

 

 

本編後半のMCで洋平さんは「お前らがついて来なくなってもバンドを続ける」と話していた。しかしそれは年月と共にファンが離れていくことを言いたかったのでは無かったかもしれない。

 

[ALEXANDROS]は結成当初より”世界一のバンドであることを証明する”という大きな野望を抱いている。だから「ついて来なくなっても続ける」というのは「日本のファンがついて行けないような場所まで音楽を届けてライブをする」という意味なのではないだろうか。

 

半年間のジャパンツアーで弾みをつけ、バンドはこの後アジアツアーへと突入する。

ゆくゆくは更にワールドワイドに[ALEXANDROS]の音楽は響き渡るだろう。今回のジャパンツアーの規模で、いつかワールドツアーを回る日が来るまで、このバンドと併走出来ればと思っている。